「子どもの幸福度が高い国」オランダ、その教育とは?(オランダの教育制度)

子どもの幸福度が高い国として、オランダが有名です。
その中でも、オランダの教育はすばらしい!と、
近年日本で紹介されるようになりました。

オランダの教育が「なぜ」すばらしいといわれているのか
オランダの教育はどんな特徴があるのか

私がオランダに出会ったのは2015年9月。
その出会いに衝撃を受け、継続的に視察に行き続けています。
(現在は、視察ツアーでみなさんと一緒に視察を行っています。)

実際に、定期的なオランダの教育現場へ視察に行き、
小・中・高・大学の視察や、オランダの先生、オランダのコーチとの出会いから、
オランダの教育について、まとめていきます。

教育の自由が認められている国

オランダでは憲法で、教育の3つの自由が保障されている。

①設立の自由・・・200人の子ども、教職員と役員を集めることができれば、誰でも学校を作ることができる。
②理念の自由・・・どんな理念に基づいても構わない。
③教育方法の自由・・・どんな教育手法、教材を用いても構わない。自由に選択することができる

※憲法23条の中で保障されている
※公立、私立も国の補助は同じである。
※保護者と子どもで行きたい学校を自由に選ぶことができる。
(大きな都市では、抽選の場合もある。)

子どもたちは4歳になると、親と一緒に学校へ行きます。
いくつかの学校に見学へ行き、行きたい学校を選びます。
日本のように、校区はありません。
希望が決まったら、親と一緒に学校へ入学希望の手続きを行います。

入学後、万が一合わない場合などは、
学校とミーティングなどを行い、転校することも可能です。

学校と教育の多様性

教育の多様性が認められているため、学校ごとに「教育理念」が違います。
また、その理念を実践するために、どのような「教育手法」で実践するかも、
学校が決めることが可能です。

そのため、学校ごとに特徴や個性が異なるのです。

・シュタイナー教育
・モンテッソーリ教育
・フレネ教育
・ダルトン教育
・イエナプラン
・多重知性理論
・スティーブンジョブス教育
・テーマ学習教育
・キリスト教系教育
・イスラム教系教育

等など。

公立私立関係なく、学校が主体的に教育手法を決めています。

最初はイエナプランだったけれど、新しい教育手法が出てきたので導入し、
今は新しい手法になっている!というような学校もあります。

時代に合わせて、学校が進化していく。
オランダの1つの特徴かもしれません。

※どんな理念、教育手法で教育を行っても構わないが、
実践されているかどうか、国から定期的にチェックが行われる。
理念が実践されていない、学力の指導が出来ていないなど、
学校として求められるものが実施されていない場合、
勧告後、改善されない場合は学校として認められなくなる。

オランダ教育の特徴

■共通の特徴(初等教育・中等教育)

①学校を自由に選ぶことができる
→中等教育は、コース内の学校を自分で選ぶ。

②義務教育期間の学費は無料である
※オランダの学校(公立と私立)であればどの学校でも無料です。
インターナショナルスクールは、オランダの学校ではないため、学費が必要になります。
※修学旅行や遠足など活動等の費用は、特別教材費として保護者負担分になります。

③進学する際、入学試験は無し

④落第や留年、飛び級がある
小学校から、学力が未達の場合は落第や留年がある。親が希望する場合もある。
学力などに応じて、飛び級することも可能である。
それは、特別なことではない。
身の丈にあった学びを大切にしている。

■初等教育の特徴

①卒業証書は、どの学校でも価値は同じである
卒業資格は、全国共通の統一試験に合格すると与えられる。卒業試験の合格が進学資格となる。

②親が学校へ送迎する

④学校によって、ルールも違う
チャイムがなる学校もあれば、ならない学校もある。
時間割が決められている学校もあれば、子どもたちが決める学校もある。
一斉授業が行われる学校もあれば、ミーティングやプロジェクト活動主体の学校もある。
使用する教材も、学校によって異なる。
学校によって運営スタイルやルールも異なっている。

「オランダは学校の数だけ、学校のスタイルがある」

オランダの教育制度

■義務教育期間

オランダの義務教育は、5歳から18歳までになります。
教育の種類での区分はなく、年齢で定められています。
初等教育の「basisschool」と、中等教育の「voortgezet onderwijs」にまたがっています。

学校の種類は、公立学校と特殊学校(Bijzonder onderwijs)と呼ばれる学校があります。
特殊学校は主に2つに分かれ、一つは宗派による学校(Confessioneelonderwijs)です。

もうひとつが一般特殊教育の学校(Algemeen bijzonderonderwijs)と呼ばれるもので、
モンテッソーリ教育やイエナプラン教育などがあたります。

16歳以上は部分的義務教育となります。
部分的義務教育とは、週に2日以上は教育を受ける義務です。

義務教育の終了は、18歳に達するか、VWO, HAVO, MBOなどのディプロマを取得した時点で終了となります。

初等教育(BAO)

初等教育「basisschool」は、4歳から12歳までです。

日本の幼稚園に当たる2年間と小学校6年間を併せたものです。

子どもが4歳になると、保護者が子どもに合う学校を探して、様々な学校へ見学へ行きます。
その後、希望の学校を決め、学校に申し込みを行い、学校が決まります。
入学時期は、各家庭によって異なります。
一斉に入学するわけではないので、入学式などはありません。

子どもたちは、月曜日から金曜日まで通います。
水曜日は半日授業だそうです。(年々変わってきてきます。)

学力の確認のため、半年に一度の試験を受けることが義務付けられています。

進路は、子ども・親・先生の三者で面談の後、学校が最終的に決めていきます。
子どもの持っている才能や、初等教育期間に学んだ成果を示す普段の成績を基に、
学校がどのコースに進んだらよいかのアドバイスを本人と保護者にします。
中等教育のコースは学校が決定し、そのコースのどの学校を選ぶかは、子どもと保護者が決めます。

グループ8のときに、全国共通試験(CITO)を受験します。

中等教育

中等教育は「voortgezet onderwijs」と呼ばれています。
オランダの中等教育は12歳から始まります。
・大学進学教育(VWO)
・上級一般中等教育(HAVO)
・中等職業訓練教育(VMVO)の

3つの進路に分かれます。

多くの学校は、何種類かのコースを置く総合学校(Scholengemeenschap)です。
最初の1~2年の間は基礎期間として設定し、その期間後に改めて進路を決める場合が多いようです。
場合によっては学校自体をを変わることもあります。
(転校や編入など)

VWO、HAVO、MAVO、VMBOのすべてに最初の3年間は、「基礎教育課程」が導入されています。
3年間で3000単位時間(総授業時間数の80%、1単位時間は50分)の必修科目を履修する必要があります。

必修科目は、オランダ語、英語、現代外国語(ドイツ語又はフランス語)、
数学、物理、化学、生物、地理、歴史、政治、経済、工学、芸術(音楽、美術、ダンス、演劇の中から2科目選択)、
自立のための生活技能、体育です。
※総授業時間数の20%についてはラテン語、宗教などの選択科目に充てられている。

■大学進学教育(VWO)/6年コース

「voorbereidend wetenschappelijk onderwijs」は、VWOとよばれています。
12歳から18歳まで、6年間の教育です。
中等教育を受ける生徒の10%~20%が進学します。

VWOでの授業は、研究大学(WO)への進学準備をする教育になります。
大学入学資格は、VWOディプロマの取得が必須となります。
VWOのディプロマでは、WOに進学です。
大学によっては、大学個別の入学試験が存在することがあります。

VWOには、次の3つのタイプの学校に分類されます。

Gymnasium(ギムナジウム):ギリシャ語とラテン語が必修科目のコース
Lyceum(リセウム):ギリシャ語とラテン語が選択科目のコース
Atheneum(アンテネウム):ギリシャ語とラテン語を学習しないコース

■上級一般中等教育(HAVO)/5年コース

「hoger algemeen voortgezet onderwijs」、HAVOと呼ばれています。
12歳から17歳まで、5年間の教育です。
中等教育を受ける生徒の10%~20%が進学します。

HAVOの授業は、高等職業教育(HBO)への進学準備をする教育です。
卒業時にはHAVOディプロマが付与されます。

HAVOディプロマを取得すると、HBOレベル(職業大学)の高等教育に進学が可能になります。

■中等職業訓練教育(VMVO)/4年コース

「Voorbereidend middelbaar beroepsonderwijs」、VMBOと呼ばれています。
12歳から16歳までの教育です
中等教育を受ける生徒の60%~70%が進学します。

言語、数学、歴史、芸術と科学の理論的な教育が行われます。
そして職業訓練をも兼ね備えた授業になります。

企業でも職業実習を行うシステムが取り入れられています。

■中等職業教育機関(MBO)

MBO(middelbaar beroepsonderwijs)は、1~4年の中等職業教育です。
多くの生徒はVMBO卒業後に入学します。

MBOのレベルは4つに分かれています。

レベル1: 最高で1年の教育課程で、簡単な職務を遂行できるレベルを目指します。修了者はMBOレベル2に進学できる。(主にアシスタント訓練)
レベル2: 2~3年の教育課程で、職務遂行できるレベルを目指します。(基本的職業教育です)
レベル3: 3~4年間の教育課程で、単独で職務を遂行できるレベルを目指すします。
レベル4: 4年間の教育課程で、高い責任を伴う職種(中級管理職)を目指します。HBOへの進学資格も取得できます。

高等教育

オランダの高等教育は、
・WO(Wetenschappelijk Onderwijs)という学術的な研究を重視する教育
・HBO(Hoger Beroepsonderwijs)という実践的な高等職業教育
の2つに分かれています。

高等教育機関の学費は、無料ではありません。
※学費:6,277 € – 20,500 €/年間(2024年)

■高等職業教育機関(HBO)

HBO(Hoger beroepsonderwijs)高等職業教育機関(応用科学大学)です。

応用科学大学(HBO)は、実践に重きをおいた教育課程を提供しています。

教員、看護師等、専門職や技術専門職を対象とした教育に重点を置いています。
専門職業教育課程の一環として、インターンシップを通じて実践的な職業経験を積むことが含まれています。

政府の認可を受けた応用科学大学は36校あります。

入学に必要な条件は、HAVOまたはVWOを修了しているか、MBOを修了し所定の要件を満たしていることです。

HBOで4~6年間にてプログラムを修了後、1~2年の専門職修士プログラムに進むか、もしくは就職(労働へ)します。

■研究大学(WO)

WO(wetenschappelijk onderwijs)は研究大学のことです。

WOは、学術的な教育を行っており、研究に重きを置いている教育機関です。

入学条件は、VWOを修了していれば希望者全員無試験・無選抜で可能です。
※ただし一部では定員があり、個別の入学試験を実施しているところもあります。

HAVOを修了した場合は、HBOの前期課程(1年)を修了した場合に限りWOに進学できます。

WOにておよそ3年で学士号を取得した後は、1~3年の修士号プログラムに進むか、就職(労働社会へ)します。

修士号を取得した人は、その後3~4年の博士号プログラムに進むこともできます。

大学は 公立、私立あわせて14校あります。

WOへ進学する者は全高校生徒の10%にも未たないと言われています。

オランダの長期休暇

オランダの学校は、地域によって長期休暇の時期がずれています。

北部・中部・南部の3つと、小学校と中等、高等学校でも少しずつずらされています。
※毎年変わります。

長期休暇時以外の休暇・欠席について

オランダでは、学校の休暇期間以外の時期に欠席をする場合には、いくつかのルールがあります。
基本的に、保護者都合による欠席の場合は、年間に1回のみ最長10日間までです。

保護者の勤務先の都合により、学校の長期休暇(夏休みなど)中に休暇を取得できないため、
学校の休暇中以外の時期に長期の休暇を申請したい場合は、職場の上司からの申請書が必要となります。

時期によっては、休暇を申請しても許可がでない場合があります。
詳細については、各学校の校長との相談が必要です。

その他、勝手に子どもを欠席させることはできません。
遅刻や欠席について厳しく管理されています。

子どもの親族の慶弔の場合は、校長による承認によって休日を申請することができます。
(校長に正式な書類を書いてもらい許可をもらう必要があります。)

それ以外の理由で、子どもを欠席される場合は、正当な理由と、
学校に欠席を認めてもらうためには正式な書類が必要となります。

オランダでは、親の都合で学校へ行かさないことは、子どもの学ぶ権利を阻んでいることになります。

オランダの教育基盤にあるもの

初等教育は、人間性の基盤・自己肯定感を育むことを実際に行われています。
中等教育になると、一気に学問に入ります。科目や勉強の量は、小学校とは異なります。

①自分で考えて、自分で選ぶスタイル

いくつかの選択肢の中から、1つ選ぶ。
このようなトレーニングが、入学と共に始まります。
自分で考えて選ぶ。
最初は少ない選択肢の中から選びますが、
学年があがることに、選択肢の数が変わります。
そして、最終学年なれば、自分の進路(将来やりたいこと、なりたいもの)などを選ぶという
自己決定力を育てています。

②自分の行動を省察する

「なぜ、その方法を選んだのか?」
計算問題を解いて、間違えた際に促される質問です。
自分がやったことを、自分で振り返り検証し、次どうするかを考えていく。
このような行動と省察が、当たり前のように行われています。

③教員養成カリキュラムに「コーチング」の理念と手法が存在している

教員養成大学でのカリキュラムが、コーチング実践型のカリキュラムになります。
コーチングを体験し、自らが実践しながら、
教員としての在り方・技術・必要な力を身につけていきます。
そのようなプロセスを経てなる教員のみなさんは、コーチのように自然にコーチングができます。
先生がコーチのように「自己肯定感を育む関わり」「可能性を引き出す質問」「主体性を伸ばす実践」を行っているのが、
オランダの先生になります。

④教育ツール・環境すべての基盤にコーチングが根付いている。

教室の掲示物、先生たちが使う教育ツール。
「自己肯定感を育む工夫」「可能性を引き出すデザイン」「主体性を伸ばす工夫」のもと、
創り上げられています。
そのため、先生の力量だけに依存することなく、教室作りや授業を進めることが可能です。
ツールや環境をもが、サポートになっている。
教育ツール・環境のすべての基盤にコーチングが根付いています。

⑤手法・理念が違えど変わらない人材育成

初等教育の際、様々なルール、様々な教育手法で過ごした子どもたちが、
中等教育にあがるとどうなるのでしょうか?
それぞれのやり方、ルールなどを主張するのでしょうか?
そのようなことは、一切ないそうです。

「これだけ違う教育を受けてきた子どもたちが、
1つの場所にそろったら、特徴が出たり、ルールに馴染めない子が出たり、
することはありませんか?」

視察の際に、ある中学校の校長先生に、このようなご質問しました。
答えは・・・

「どこの学校出身の子かどうか、まったくわからない。
シュタイナーであれ、ダルトンであれ、どの学校から来た子かどうかなど、
わからないですよ。」

※コーチングとは、人間理解に基づいて、人の力を引き出すコミュニケーション。
本人が自分で考えて、自分で行動し、自分が望む結果を手に入れていくことをコミュニケーションを通じて行う分野。

まとめ

ご覧いただいたように、オランダと日本とは、システムが異なります。
憲法で自由が認められている国ですからね・・。
国が認めていることが違う以上、日本で同じようにはできません。

初等教育から、一貫して個性や考えを尊重する教育が行われています。
また、実践的な問題に対して自分で立ち向かい・実践と省察を繰り返す中で解決できるようトレーニングがされています。

教育と労働市場の繋がりがとても重視されています。
年齢が上がるごとに、実務に直結した専門教育やインターン実習など、実社会で必要とされる能力を身につけることができるよう、
デザインされています。

高等教育においても、習得した知識や経験、取得した学位が重要とされています、
(大学の名前は、重要ではありません。)

視察に行った際、
初等教育の目的の1つに「自ら学ぶことを学ぶ力」
中等教育の目的の1つに「社会に自分の居場所を創る力」
と説明を受けました。

初等教育から高等教育へ。
1つずつ、着実に実践されているんですよね。

しかし、オランダも昔から教育環境がよかったわけでも、今のような状況でもなかったのです。
15年ほど前から、あらゆる挑戦や改革を行ってきたからこその今なのです。

オランダだから・・より、
オランダの実践と省察の中で見えてくるものをヒントに、
「日本で何ができるのか」「どうやったらできるのか」
考えていきたいと思います。

日本でもできることに挑戦しかないと!!!
子どもたちの成長は、待ってくれないですからね。

<ご参考>
※子どもの幸福度について
国連児童基金(ユニセフ)が発行する報告書『先進国における子どもの幸福度』(Innocenti Report Card 11)を発表。『子どもの幸福度』を、「物質的豊かさ」「健康と安全」「教育」「日常生活上のリスク」「住居と環境」の5分野で測定した結果、2013年度、総合でオランダは1位。日本は31か国中、それぞれ21位、16位、1位、1位、10位、総合では6位となった。日本もトップクラスだったが、項目によるばらつきと差が大きいことが問題とされた。毎年発表さえれています。