空間が子どもを育てる。大阪市立心和中学校(学びの多様化学校)を視察して

空間が子どもを育てる。
大阪市立心和中学校(学びの多様化学校)を視察して

2026年6月30日(火)13時30分から15時30分まで、
スマイルファクトリーとして、大阪市立心和中学校を視察させていただきました。

今回の視察で私が知りたかったのは、学校の仕組みだけではありません。

「子どもが自分らしく過ごすこと」と、「当たり前に享受できる学びや育ちの権利」は、どのようにすれば両立できるのだろう。

そんな問いを持ちながら、心和中学校の取り組みを学ばせていただきました。

「学びの多様化学校」とは

「学びの多様化学校」は、不登校の子どもたちの実態に配慮し、
通常とは異なる特別な教育課程を編成して教育を行う学校です。

以前は「不登校特例校」と呼ばれていましたが、現在は「学びの多様化学校」という名称が使われています。

学校教育法に位置づけられた正式な学校でありながら、
子どもたちの学習状況や生活リズムに合わせて、授業時間や学習内容、学び方などを柔軟に組み立てることができます。

大阪市立心和中学校は、不登校または不登校傾向にある生徒の実態に配慮した教育課程を編成する昼間部と、
夜間学級である夜間部を備えた公立中学校です。

昼間部では、生徒一人ひとりのありのままを受け入れ、
状況に合わせた個別支援を行いながら、自らの将来を切り拓く力を育てることを目指しています。

今回の視察の目的

スマイルファクトリーでは、学校に合わないと感じている子どもたちと、日々関わっています。

私たちは、子どもを学校へ戻すことを目的にしているわけではありません。

学校へ行くことが、その子にとって苦しさにつながっているのであれば、
まず必要なのは、安心して過ごせる場所や、自分を取り戻せる時間です。

一方で、子どもたちの学ぶ権利や育つ権利を考えるとき、
学校という場所が持っている役割の大きさも、無視することはできません。

今のところ、学校を超えるほど、義務教育期の子どもたちに必要な学びや育ちの機会が、
幅広くそろっている場所を、私は他に見つけることができていません・・・。

学校には、教科学習だけではなく、
同世代の子どもとの関わり、
異なる価値観との出会い、
行事や体験活動、身体を動かす時間、
文化や芸術に触れる機会など、
子どもが成長していく中で必要となる、さまざまな学びが用意されています。

自分の得意なことや苦手なことに気づく。
誰かと一緒に取り組む。
思いどおりにならない経験をする。
初めてのことに挑戦する。
新しい人や価値観に出会い、自分の世界を広げていく。

学校という環境には、子どもが可能性を広げ、学びを深め、
自分自身を広く、深く知っていくための、たくさんのチャンスが準備されています。

フリースクールは、子どもが安心して過ごせる居場所として、とても大切な役割を担っています。

しかし、一つのフリースクールだけで、子どもの発達段階に応じて、
その年代に必要な体験や学びを、さまざまな角度から十分に用意することは、簡単なことではありません。

塾や家庭教師は、教科学習の面では手厚いサポートができます。

けれど、義務教育期の子どもたちに必要な学びや育ちは、学力だけではありません。

学校という場所が子どもの居場所になれなくなったとき、その子が失ってしまうものが、あまりにも多い。

だからこそ、子どもを学校へ戻す方法を考えたいのではなく、
学校に本来そろっている学びや体験、出会いや育ちの機会を、
学校に行くことが難しい子どもたちにも、どうすれば保障できるのかを考えたいと思っています。

今回の視察では、主に次のことを知りたいと考えていました。

  • スマイルファクトリーの活動に生かせるヒントを得ること
  • 学びの多様化学校とフリースクールの共通点や違いを知ること
  • 学びの多様化学校が持つ可能性を考えること
  • 子どもが自分らしく過ごすことと、学ぶ権利や育つ権利を両立できる環境について考えること

校内全体に流れる、明るさと安心感

校内に入って、まず感じたのは、学校全体の明るさでした。

先生は「校舎は古くて・・・」とお話しされていましたが、
実際に歩いてみると、古さよりも、明るく落ち着いた印象が強く残りました。

大きな窓から入る自然光。
照明の種類や配置。
光が届きやすくなるように考えられた空間。

家具の色や置き方にも工夫があり、校内のどこにいても、穏やかな安心感がありました。

建物を新しくすることだけが、よい環境づくりではありません。

今ある校舎の中で、光や家具、空間の使い方を工夫することで、
学校の印象はこれほど変わるのだと感じました。

子どものパーソナルスペースを守る机

教室に導入されていた机も、とても印象に残りました。

机には、周囲からの視線をほどよく遮る仕切りがあります。

完全に閉ざされた個室のようになるのではなく、周囲の気配は感じられる。

でも、視線や刺激からは、ある程度守られる。

その「絶妙な目隠し具合」が、とてもよく考えられていました。

集団の中にいながら、自分のパーソナルスペースを保つことができる。

「一人になりたい。でも、孤立はしたくない」

そんな子どもの気持ちにも応えられる机だと感じました。

校内のさまざまな場所で、気持ちを整えられる

心和中学校には、教室以外にも、カウンセリングルームやリラックススペース、談話室やサロンなど、
子どもたちが過ごせる場所がいくつも用意されていました。

校内のあちらこちらに置かれたIKEAの家具も、学校らしさを少し和らげ、
家庭やカフェのような落ち着きをつくっていました。

一つの特別な場所だけを「安心できる部屋」にするのではなく、
校内のさまざまな場所に、落ち着ける空間がある。

その日の状態に合わせて、過ごす場所を選ぶことができる。

こうした環境は、子どもにとって大きな安心につながるのだと思います。

       

カームダウンルームを使う子が、ほとんどいなくなった

視察の中で、特に印象に残ったお話があります。

心和中学校には、気持ちを落ち着けるための「カームダウンルーム」が設けられています。

ところが、現在は、この部屋を利用する子どもがほとんどいなくなったそうです!!

その理由は、学校全体が落ち着いて過ごせる環境として機能するようになったからでした。

特別な場所に避難しなくても、校内のどこかで自分の気持ちを整えられる。

この事実に、空間の質が持つ力を感じました。

また、この数年で、教室に入って学習する子どもも増えてきたと伺いました。

子どもを教室へ入れようとするのではなく、安心できる場所や逃げ場を用意し、学校全体で子どもを受け止める。

その結果として、子ども自身が教室へ向かうようになる。

空間が子どもたちをホールドする、まさに「場の力」を感じたお話でした。

自分の状態を伝える「紙コップ」

校内には、子どもが自分の状態を伝えるための、さまざまな工夫もありました。

その一つが、紙コップを使った意思表示のツールです。

言葉で説明することが難しいときにも、紙コップを使って、自分の状態を周囲に伝えることができます。

とてもシンプルな仕組みですが、
自分の気持ちや状態を言葉にすることが難しい子どもにとって、大切なコミュニケーションツールです。

「言葉でちゃんと説明して」と求めるのではなく、伝えやすい方法を環境の側が用意する。

この視点は、スマイルファクトリーでも大切にしたいと感じました。

「どこにいてもいい」と「どこにいるかは分かる」の両立

心和中学校では、子どもたちは校内のさまざまな場所で過ごすことができます。

一方で、自分が今どこにいるのかは、マグネットを使って示すルールになっていました。

子どもは、自分の状態に合わせて居場所を選ぶことができる。

先生は、子どもがどこにいるのかを目で見て確認できる。

子どもの自由と、先生が安全を見守る責任が、どちらも守られる仕組みです。

細かく管理して行動を制限するのではなく、必要な情報を分かりやすく「見える化」する。

この仕組みには、私がこれまで視察してきたオランダの学校にも通じるものを感じました。

校長先生の教育観が、学校の空気をつくっている

今回の視察で、何より印象に残ったのは、校長先生のお話です。

学校や子どもたちへの思いが、とても熱く、そして深い。

子どもを信じる。
支える。
急がせずに待つ。
必要なときに手を差し伸べながら、見守る。

その教育観が、先生方の関わりや、校内全体の空気に表れているように感じました。

子どもに「こうしなさい」と求める前に、その子が安心して動き出せる環境をつくる。

そして、子どもが持っている力を信じる。

学校は、制度や建物だけでできているのではなく、
そこにいる人たちの教育観や在り方によってつくられているのだと、改めて感じました。

スマイルファクトリー、そしてオランダ教育との親和性

心和中学校を歩きながら、スマイルファクトリーが大切にしていることや、
これまで視察してきたオランダの学校との共通点を何度も感じました。

私はこれまで、イエナプラン教育、ダルトン教育、モンテッソーリ教育、シュタイナー教育など、
オランダのさまざまな学校を視察してきました。

教育方法や学校の形は、それぞれ異なります。

それでも、多くの学校に共通していたのは、
子どもを一方的に管理したり、決められた型に当てはめたりするのではなく、
子どもが自分で動き出せるように環境を整えるという考え方でした。

自分で選べること。
ルールや、今することが目で見て分かること。
一人で落ち着ける場所があること。
必要なときには、誰かに助けを求められること。
自由に任せるだけではなく、安心して自由を扱える仕組みがあること。

心和中学校の、マグネットによる居場所の見える化や、紙コップを使った意思表示、
パーソナルスペースを守る机、校内に複数用意されたリラックススペースにも、同じ方向性を感じました。

そして、これはスマイルファクトリーが大切にしていることとも重なります。

スマイルでも、子どもを変えることよりも、まず環境や関わり方を見直すことを大切にしています。

安心して過ごせる。
自分の状態に合った場所を選べる。
無理に言葉にできないときにも、別の方法で意思を示せる。
子どもを信じながら、必要なときには支える。

学校とフリースクール、日本とオランダ。

制度や文化は違っても、子どもを中心に環境を考えるという点には、深い親和性があると感じました。

視察を終えて

今回の視察を通して、改めて感じたことがあります。

教育は、授業だけでつくられるものではありません。

空間。

光。

家具。

ルール。

意思を伝えるためのツール。

先生のまなざし。

そして、学校全体に流れる文化。

そのすべてが、子どもたちを支えています。

心和中学校は、子どもたちを学校の形に合わせるのではなく、
子どもたちの状態に合わせて、学校の環境や仕組みを柔軟につくっている学校でした。

子どもに学校への適応を求めるのではなく、子どもに学校が近づいていく。

そのことによって、これまで学校という場所では受け取りにくかった学びや体験を、
子どもたちが再び享受できる可能性が生まれます。

安心して、自分らしく過ごせること。

その年代に必要な学びや体験に出会えること。

どちらか一方ではなく、その両方が保障される場所をつくること。

そこに、学びの多様化学校の大きな可能性を感じました。

スマイルファクトリーでも、今回の視察で得たヒントを持ち帰り、
一人ひとりが安心して過ごしながら、必要な学びや体験に出会える環境づくりを、
さらに丁寧に考えていきたいと思います。

また今回の視察では、学びの多様化学校とフリースクールの違いや、
それぞれが担える役割についても、多くのことを考えました。

公立学校の枠組みの中で、子どもが自分らしく過ごすことと、
学ぶ権利や育つ権利を、どのように両立していくのか。

学びの多様化学校が持つ可能性や、今後の不登校支援の在り方については、
別の記事で、もう少し深く考えてみたいと思います。

大阪市立心和中学校について

今回視察させていただいた大阪市立心和中学校について、詳しく知りたい方は、学校公式ホームページをご覧ください。

大阪市立心和中学校 公式ホームページ

※「学びの多様化学校」に関する制度説明は、文部科学省および大阪市の公表内容をもとに記載しています。